モノクロオルタ1

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 県内有数の歓楽街の夜も、月曜日では普段よりも抑制気味だ。  白髪交じりの中年をもてなす若いサラリーマン。  居酒屋のすぐ近くで吐いているフリーターらしき男。  髪にワックスをたっぷりとつけてキメ男と、その男の腕に絡むようにして歩く肌の黒い女のカップル。  白色ネオンに照らされた娯楽の街を眺めていると普段生活している場所とは異世界のように思えてくる。 「本当に確かな情報なのでしょうか……」  呟きながら神田(かんだ)吉次(よしつぐ)は腕時計を見た。市民からの通報により神田が派遣されて一時間が過ぎようとしている。見張っているビルからターゲットであろう男が出てくる様子はない。通報者は随分と自信がなさそうだったらしく、デマだった可能性も考えられる。押し入ってしまえば早いのだが、令状もなくビルの管理人との連絡も取れない以上、相手が外に出るのを待つしかないのが現状だ。 「目立つのは嫌なのですが……」  再度呟く。緑を基調とした制服に身を包んだひときわ大柄な神田は、立っているだけで通行人の目を引いていた。近くを通る者が物珍しそうに歩調を緩めるのは恐らく、神田の気のせいではないだろう。特に神田と同じ年のころの若いサラリーマンは、なれない歓楽街に気を張っているのか、特にリアクションが大きい。羞恥の視線に耐えて監視を続けていると、一人の男がビルから出てきた。  中年太りした腹回り。ピチピチのウィンドブレイカー。髪はボサボサで、十一月だというのに履物はサンダルだ。だが、何よりも目を引くのは、それらとはおよそ不釣り合いなジェラルミンケースだろう。 「すみません、そこの方」 「あ? なん――!?」  背後からかけられた神田の声に、男は立ち止まって振り返り、神田の姿を見て逃げ出した。韋駄天というか見た目に反して、素早い走り方だ。人目を気にせず走っているため、男の進行方向から悲鳴や怒号が聞こえる。 「ターゲットと思われる男が市街方面へ逃走しました。各員確保に向かってください」  インカムで仲間に指示を出し、神田自身も走り出す。どうせすぐに捕まるだろうと高を括っていると、案の定、裏路地から男の絶叫が轟(とどろ)いた。裏路地に野次馬が群がる。
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