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モノクロオルタ2
「あ、かわいいイルカさん」
押収品の画集の一冊をペラペラとめくりながら、花園は楽しそうに声を上げた。狭い車内に、甲高い声が響く。護送車をベースにした捜査車両には作業台と、捜査に必要ないくつもの機器のせいでほぼ満員だ。神田の正面に座る男は所在無げに視線を泳がせている。
「花園少尉、検査の結果はまだですか?」
「あ、すみません」
神田の問いに、花園は思い出したように検査装置から、検査結果を印刷された用紙と画集を取り出した。褐色の枠が印刷された専用の用紙に必要事項がきちんと印刷されている事を確認していく。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、印刷の様子が……」
「見せてもらえますか?」
花園から用紙を受け取り、中身を検める。なるほど確かに用紙の下から三分の一程度の印字が本来の黒ではなく黄色になっていた。
「これくらいなら大丈夫でしょう」
「そうですか、それなら良かったです」
安心した花園から神田は画集を受け取る。古いプリンターなので、そろそろガタが来ているのだろう。後で軽くチェックしておこうと心にメモしておく。検査結果の数値に一通り目を通し、画集を開く。二十世紀中ごろから活躍した、海や海洋生物で有名な画家の画集であった。ページいっぱいの青が目に眩しい。
「B(ブルー)の値がR(レッド)とG(グリーン)のどちらの値と比較しても三十パーセント以上高いことを確認しました。面積については調べるまでもないでしょう。さらにですね――」
神田は検査項目と画集を作業台に広げ、その内容を交互に照らし合わせながら、男に説明を行った。説明を続けていくにつれて、男が動揺しているのが手に取るようにわかる。チラリと視界の端に、二冊目の画集を楽し気に見つめる花園の姿が目に入ったが、今は放っておく。本来ならば押収品で違反品の疑いがあるものはすべて検査するべきで、この説明と並行して検査を行うべきなのだが、陰性を示す結果は一つあれば根拠になる。どのみち確保の時点で花園には説教確定なのだから欠点の一つや二つ、今更だ。
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