モノクロオルタ2

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 強い視覚情報が精神への働きかけを強めるとして、政府が人工物への『色』を強く取り締まるようになったのは平成が終わって数年後の事である。政府はまず、街にあふれる看板や電飾をすべてモノクロのものへの交換を命じた。続いて映像や印刷物などへのメディアを白黒しか出力できないよう規制し、同時に全国の学校や図書館に働きかけ既存の出版物の回収も行った。さらには自動車や衣類などの工業製品をも取り締まり、果ては街路樹すら撤去した。違反すれば懲役刑の強い罰則規定の前に人々は委縮し、法律の施行から四十余年が経った今、人々の生活から本格的に『色』が消失した。都市全体が巨大なシェルターに覆われた今日において、人々が『色』を目に出来るのは、生身の体をのぞけば、一部の許可された大学レベルの本の写真か、警察や消防といった公共性の高い職種の制服、糞尿やカビなどの汚物だけである。大学教員レベルであっても、『赤』という字が血や舌の色を示す漢字だと理解できない者が大勢いるそうだ。 「あなたを色相取締法違反の現行犯で逮捕します」  一通りの説明が終わったところで、神田は男に手錠をかけた。男は表情をなくし、血の気が引いているように見えた。何度も見た表情だがその度に、こういう表情を顔面蒼白というのだろうかと、神田はつい考えてしまう。
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