出張

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桜井聡の妻、まといは占い師だ。 良く当たると評判で、一時期はTVにも出演依頼が殺到するほどだった。 当時は個人個人の運命を見ていたのだが、いつからかその占いは予言と呼ばれるようになり、占う内容も事件、災害のような大規模なものになっていった。 その頃からだ。彼女がメディアに顔を出さなくなったのは。 余りにも的中させるその「予言」を利用しようとする国の様々なトップと呼ばれる者達に、存在を隠蔽されてしまったからだった。 彼女としては不本意だったが、そういった者達からの報酬は莫大で、収入は聡の何十倍にも膨れ上がっていた。 聡は何も悪くはないのだが、その事で日毎に卑屈になっていった。 まといはそんな聡を見かねて、何度も占いで聡の昇進の方法を探ってみたが、なかなかいい方向が見えなかった。 そんなある日、珍しく聡のほうからまといへ占いを願いでた。 近々海外へ某社との契約の打ち合わせがあるので、日程その他、契約が成立するタイミングを占って欲しいという事だった。 まといは喜んで占う事を承諾した。 これ以上卑屈になっていくのを見ていられなかったからだった。 まといは事細かく指示をした。 契約の日時や、滞在期間、随行者、搭乗飛行機や宿泊先まで。 言われた通りに聡は日程を組んだ。 しかし 聡を乗せた飛行機は、離陸途中で墜落してしまい、乗客のほとんどが死亡する大惨事となってしまった。 それでも奇跡的に聡は一命を取り留めた。 意識不明の重体ではあったが。 微かに意識を取り戻した聡は、傍らに誰かいるのを感じた。 「…がとうございました」 まといの声だった。 きっと誰かがお見舞いに来ていて、そのお見送りをしたところだろう聡は思った。 聡は、まといがベッドの横に腰掛けるのを感じた。 そして、まだ意識がないと思っているのか、独り言のように聡に話しかけた。 「私の占い、外れちゃった。これ以上あなたの卑屈な姿を見たくなかったのに」 いや、お前のせいじゃないよ、聡はそう言いたかった。 次の言葉を聞くまでは。 「まさか、生きているなんて」
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