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四階の階段を上がってすぐにある音楽室の前。
……何でこんな人通りの無いとこ。やだ。早く戻りたい。
「手、出せ」
「は?何言ってんの?」
「昨日の釣りやるから早く手ぇ出せって」
それならわざわざここじゃなくても良いんじゃないの!?
苛立ちながら手を出した。
「片手じゃなく両手出せって」
……腹立たしいが、早く戻りたくて仕方無く従う。
ポケットに手を突っ込んでお金を探ると、私の両の掌に乗せ始めた。
幾らか分からないけれど、右手がそれを出し終わったので私も腕を引っ込めようとした。
「待って、まだあるから」
そう言って今度は反対側のポケットを探す手。
私は小銭を両手に積まれて間抜けな姿。
ようやくポケットから出てきた手が、小銭の上にそっとそれを乗せた。
あ……。
何故それを彼が持っていたのかも分からない。
ただ……。
星屑がモチーフの飾りが付いたヘアピン。
中学の修学旅行でハンドメイドショップで買った一点物の、私のお気に入り。
それが、入学して暫くしてからの体育の授業で外に出たときに落としてしまったらしく、思い当たる節をどこ探しても見付からずに、最近ようやく諦め掛けていた代物だった。
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