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「どうして……」
「えっと……この前落ちてたから、拾ってやった」
「違う。どうして私のだって分かったの?」
「え?……そりゃあ……別に良いだろ、そんな事」
……嬉しい。
だからお礼だって素直に口から出た。
「ありがとう!すごく嬉しい。大事だったから、これ……」
愛しくそれを見詰めた。
それなのに、言った途端に今置いたばかりのそれを再び彼が手の内に納めた。
えっ?
「……つけてやる」
「は?や、大丈夫。後で自分でするから良い」
「良いから、遠慮するなって」
後退りする私、それににじり寄る彼。
……あ。
壁に阻まれてこれ以上下がれません。
不意に伸びてくる手が……私の髪を触る……。
咄嗟に目を瞑った。
見なくても伝わる、ぎこちない手付き。
今まで女子に髪弄られることあっても、男子には無かった。だから、このドキドキはそれのせい。
「ほら出来た」
その言葉にそっと目を開く。
目の前には満足そうな彼。
「……あ、ありがと。じゃあ私……もう教室戻るね」
彼がいつもと違うので何か調子狂う。
居心地悪くて早く立ち去りたかった。
「あ、あぁ。俺も戻る。そ、それさぁ……それ、似合ってるじゃん。かっ可愛いぜ」
それだけ言うと、固まった私を置いて逃げるように彼は階段を駆け降りていった。
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