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『神谷茂(カミヤ シゲル)。32歳男性。成人を迎えた頃より自宅に引きこもりがちになり、22歳で統合失調症と診断を受ける。幻覚・妄想が著しく、診断確定後は入退院を繰り返す。
歩道で包丁を振り回し、その場に居合わせた男女数名に怪我を負わせる』
「あ、神谷さんね」私が話すと同時に、木村ナースはうんうんと首を振った。
『駆けつけた警察官に現行犯逮捕されたものの、留置所で意味不明な言動を繰り返したため、責任能力を問うために当病院へ精神鑑定の依頼を受ける。本日午後入院』
「今の所、どう? 食事とか摂取できてる?」
「環境が変わったせいなのか、昨日興奮状態だったのが落ち着いたのかは分かりませんが、個室でおとなしくしています。夕食は半分ほど食べたようです」
木村師長は報告をしながら、病院廊下の白い壁まで体を寄せた。
病院には様々な業者が訪れる。また、青臭い考えかもしれないが、何よりも患者さん中心であるべき施設だ。
普段の業務ではできていても、質問をしながら廊下の中央を他人に譲るということは中々できない。彼女が有能で、思いやりのあることの証左だ。
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