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「……何か楽しいことでもありましたか?」
「あ、いえ。何か、せっかくの休みに何やってんだろうって自分に呆れちゃって」
「そうですか?雨宿りもたまには良いものですよ?」
その笑みの優しさに耐えきれずに、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「いつも、ポップはお一人で?」
「……ええ、そうです」
遠慮がちに答える。
「どれも楽しく読んでます。ほら、あれは特に傑作でした」
そう言って時代小説を名指しすると、そのポップの内容を誉める声が誉められ慣れていない彼女の居心地を悪くした。
「どんな人がこんな風に書いてるのかと、気になっていました」
照れながら彼が言う。
「……すみません、実際は何の変哲もないこんな女で」
申し訳なさそうに彼女が答える。
「ポップを読んでいると本に対する愛情が伝わってくる。それで十分なのでは?」
「……何だかすみません、お客様に気を使わせてるみたいで」
クスリと彼女が笑う。
「客、以上になれそうですか?」
「え?」
「僕はあなたにとって……客ではない存在になりたい。今日ここで会えたのはラッキーでした。」
瞠目する彼女に、にっと男は笑った。
微かに空が明るくなり雲の狭間から所々オレンジ色の光が漏れる。
それが木々の雨粒を輝かせ始めていた。
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