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急な夕立から逃げるように軒先に入っていく。
先客がそれに気付いてその身をずらす。
男は彼女の隣に立ち、遠慮がちに背広についた雨粒を細長い指でほろった。
天を仰ぐ彼女の下がった眉に気付き、つい笑みが漏れる。
「すぐには止みそうもないですね」
その言葉が自分に向けられていると気付くと、彼女も遠慮がちに笑い返した。
彼と目が合い、何かに気付いた様子の彼女。
「……河野書房さん、ですよね?」
男が話し掛けると、彼女は更に驚いたように目を見開いた。
「いつも、利用してるので」
「……ありがとうございます」
「今日は、休みですか?」
「……ええ。それなのに、ついてないです」
更に眉が下がる。
「そうですか?僕はラッキーでした」
何が、こんな雨でラッキーなのだろう、と彼女は考えを巡らせた。
元々本好きの空想好きだ。
だから、本屋への就職が決まったときは嬉しかった。
人一倍頑張ろうと強く思った。
特にポップ作り。
一人でも多くの人に自身のお薦めの本の魅力を伝えたい。
だから、休みの日には他店のポップを見て回ることも多い。
今もまた、その帰りだった。
休みの度にこんなことやってるんだもの、行き遅れるのも当たり前。呆れながら小さく笑う。
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