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夜空を雲が多いつくし、光がほんのわずかそそぐだけの暗闇の中、一人の男がその手に何かを抱き、息を切らしながら走る。
その背後からは数人の男が迫ってきている。
その手には各々武器が握りしめてあり、その身も鎧に包まれている。
重そうな鎧をもろともせず、先を逃げる男のあとを追う。
ポツリポツリと男の頬を何かがかすめた。
そう思った瞬間、ざぁっと音とともに雨が一気に降り出した。
雨は地面へと落ち、地面をあっという間に濡らした。
雨を含んだその地面を男は蹴るが、乾いていた時よりも泥が足にまとわりつき思うように足が前へと進まない。
男を追う鎧に身を纏った男達もこれには参ったのか、その足取りは遅くなっていった。
だがその差が開くことは無かった。
遂に男は橋の上で男達に囲まれてしまう。
ハァハァと乱れた息を整えながら、男はその手に抱いた布の塊を大事そうに抱え込む。
鎧の男達が道を開けたかと思えば、一人の髭を蓄えた男が姿を現した。
「もう逃げ場はありませんぞ」
ニヤついたといった表現が合うような表情を浮かべたその髭の男性は、鎧の男達の一人から剣を奪い取ると、布を抱えた男へと刃先を向けた。
「国のことは安心するといい。これからは私が王となりこの国を支配しよう。」
その言葉に布を抱えた男が静かに目を閉じた。
それを合図に髭の男性、近くにいた鎧の男達が一斉にその刃を男へと振り落とした。
鮮血が飛び散る。
男の体は崩れるかのように雨で流れの早くなった川へとその身を落とした。
ザパーンと水しぶきをあげ、男の姿は見えなくなった。
それを見届けた髭の男は持っていた剣を天高く上げた。
それに周りにいた鎧の男達が歓声を上げた。
後に国中に王交代の知らせが届いた。
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