理想

3/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
こうしていても仕方ないと身体を起こし、着替えると重い足取りで一階へと降りていく。 階段を降りると、台所の方から機嫌良さそうな母親の鼻歌が聞こえる。 これで食べずに逃げてしまえば、母親が悲しむだろうと思うと食べるしか道は残されていない。 歯を磨き顔を洗うと台所へと向かう。 挨拶を二人で交わすと席につく。 皿に盛り付けられたものを震える手で箸を持ちすくう。 食事を終え、気持ち悪くなりそうなのをこらえる。 玄関からピンポーンとなる音が聞こえる。 「はーい」 と母親のアリスが玄関へと向かうのが見えた。 遠目から玄関へと目を向けるユート。 アリスによって玄関の扉が開くと、扉の向こうには見慣れた顔。 小さい頃から一緒に過ごしてきた四つ上の近所のお姉さん。 名前はリナと言う。 父親と二人暮らしでユート達とは真逆だ。 ユート達は母親と三人暮らしである。 父親は行方不明だと聞かされている。 「ユート、エルート、リナさんよ」 アリスの声に二人が玄関へと顔を出す。 二人に気づいたリナが顔を上げる。 「おはようリナ」 エルートが声をかけると、笑顔で答えるリナ。 その様子を見つめるユートはどこかボーッとしている。 「ユート?」 リナが首を傾げ、ユートの顔をのぞき込む。 ユートは驚いて顔を真っ赤にさせ、飛び上がるようにして後ずさる。 その様子にリナはキョトンとしているが、エルートは楽しげにクスクスと笑いをこらえている。 そう、ユートはリナに想いを寄せているのだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!