95人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
風太は俺からクルリと背を向けると、オブジェの丸い穴から外を見た。
「あれ、俺んちなんだ。ちょうど二階の窓が見える。あれ、俺の部屋」
いつもと同じ口調だけど、微妙に声が震えてる気がする。
意味のない会話をする風太。凄く頑張ってる。俺は表情を明るく取り繕って、穴を覗いた。
「おお、よく見えるな」
「近いだろ。……駅まで送らなくても大丈夫だよね?」
風太は窓に顔を向けたまま言った。俺は努めて明るい声をだした。
「うん。大丈夫……じゃあ、また明日。……学校で」
「おう。また」
風太はそう言ったまま、ずっと家の窓を見ていた。動こうとしない風太を見ていた俺に「帰ってくれ」って風太のお願いが聞こえた。
足を引き、風太に背を向けてオブジェから出た。一歩二歩と離れて行くのがなんとも切なくて、寂しい気持ちになる。
べつに別れじゃない。ただ家に帰るだけだ。これからも友達。変わらないと風太だって断言したし、それを望んでる。俺だって……。なのに、この後ろ髪を引かれる感じはなんなんだ。
ずっと俺を見ないで、穴に向かって話していた風太。風太も大丈夫じゃないのは一目瞭然だ。
俺だって。やっぱり、こんな状態で上手くやっていける気がしない。小手先で誤魔化したところで、ちぐはぐになってしまうのは目に見えてる。学校のみんなも俺たちの違和感なんて直ぐに気づくだろう。王様の耳はロバの耳だ。
踏み出した一歩を止め振り返り、さっきよりも二倍の歩幅でズンズンとカタツムリめがけて歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!