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クロオイジマ
安田はデジミスの『夕凪学園殺人事件』を読んでいた。作者は鯛野サクラって人物だ。
安田は5年前に夕凪高校を卒業した。
あまり、いい思い出じゃない。
安田は1週間前、電灯設備を切って黒老島にある牢獄から脱獄に成功した。
手紙は1ヶ月に4枚までなら出せる。
高校時代の友人、高城に何度か出したが音信不通だ。
高城の祖父は闇市で成功した人物で、カストリ雑誌を主に扱っていた。
『りべらる』『妖奇』『マダム』『でかめろん』などの名だたる男性雑誌がうちの地下倉庫にある。
カストリは昭和21年~昭和27年に大量生産された。永井荷風や武者小路実篤などもカストリ雑誌に寄稿していたのだ。
高城の両親は新潟で起きた航空機墜落事故で亡くなっている。祖父は高城にとって親がわりでもある。
祖父の家は夕凪駅前にある商店街の一角にあった。安田が戻って来たことを知ると腰を抜かしていた。「どうやって脱け出した?」
「いろいろ知恵を絞ったのさ」
安田は3年前の4月に発生した鎌首川殺人事件の犯人として捕まった。鎌首川は夕凪町の中央を流れるクネクネした川だ。その川縁で深夜、夕凪高校の2年生、三熊って男子生徒が殺された。
現場には安田のケータイが残されていた。
安田は事件当夜、鎌首川になんて行っていない。
安田は同じ昼の夕方、図書館で鯛野サクラの本を読んでいた。尿意をもよおし、トイレで用を足している最中に盗まれた。
安田は夕凪高校で用務員として働いていた。
桜はすでに散りはじめ、気温は3月に逆戻りしたかのようだった。
安田はスクールバスのなかで何度か三熊と顔を合わせていた。バスの運転も安田の仕事だった。
三熊は県議会議員の孫だった。
テレビのバラエティ番組などにも時々登場する。
入学式のときに本校に祝辞に来ていた。
三熊は体格のよい生徒だった。それもそのはず、彼は野球部で甲子園を目指していたのだったから。
ライバルの朝霧高校に2年続けて敗退している。
僕を嵌めた真犯人は絶対に学園内部の人間だ。
絶対に見つけ出して残忍な方法で殺してやる。
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