【第一話】 アポロンて誰や

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「お久しぶりです。『医学』のアスクレーピオスです、父上アポロン様」 「あ、あのえっと……」 「大丈夫です。すこし、お体を見させていただきますよ」  アスクレーピオスと名乗った男はオレの身体をぺたぺたと触り、瞼の下や口の中をじっくりと見た。  そして、何やらうんうんと唸っていた。  その手つきはオレの家の近所にいたかかりつけの内科医に似ている。  指先から何か薬っぽい匂いもする。  お医者さんなのは間違いなさそうだった。 「お体に異常はありませぬ。しかし、これはいけませんね」 「い、いけないって何が?」 「頭の中です」  初対面でいきなりバカ認定された。  何て医者だ。  そう思っていると、どうやら違うらしい。  脳みそに異常があるか何か。  そのせいで、記憶喪失になっている。  そんな様な事を言っていた。 「お体は元に戻っても、記憶は戻らなかったようですね。申し訳ありません、父上」 「え、え、なんであんたが謝るの?」 「不慮の事故でお亡くなりになったあなた様を蘇らせたのは、私でございます」 「亡く……なった?」 「ええ、この『ヒュペルボレイオスの野』で」  オレは周囲を見渡した。  抜けるような青い空。  遠くに見える緑の山。  目の前には、澄んだ大きな湖。  美しい声でさえずる見たこともない鳥たち。  そして、遥か遠くには何やらドラゴンらしきものが飛んでいる……。
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