【第一話】 アポロンて誰や

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 暑くも寒くもない、常春の野の風。  オレに理解できる言葉を話す、日本人離れした顔立ちの人々。 ここは日本じゃない。  いや、むしろオレが知っている世界じゃない。  ようやくその事が分かってきた。  そしてオレ自身も、「馬室哲学」ではなくなっていた。  ハリウッド俳優みたいな彫りの深い顔に、作り物みたいに青い目、染めてないのにプラチナブロンドのウェーブヘア。  許しがたいほどのイケメンヤローがそこにいた。 「あなた様は偉大なる学芸の神・アポロン。ここにいるのはあなたが主宰する文芸の女神・ミューズの9姉妹でございます」 「ミューズ……」 「そうです、父上」  アスクレーピオスはそう言って頷いた。  何となく思い出した。  アポロンっていうのは、ギリシャ神話の神様だ。  医者のアスクレーピオスも多分、ゲームかなんかでキャラになってるのを見たことがある。  ここにいる「オレ」の正体は、神様。  現実なのか、めっちゃ夢の中なのかはよく分からないが受け入れるしかなかった。  とりあえず、分かった。  そう言うと、女神たちの顔にも安堵が広がった。  何があったのかも、自分が何なのかもわからないオレに、アスクレーピオスは暫く休息をとるように言った。  休んだり、ゆっくり散歩したりして過ごせば「自分」を取り戻せるかもしれない、と。  だが、オレはそう言われても正直困った。  みんなアポロン、アポロンと呼びたがるがオレの名は馬室哲学。  アイデンティティーは日本人のダメ浪人生だ。  今のオレにどういう「設定」があるのかは何とか把握した。  だが、いきなり他人になれと言われてもまぁ……たとえこの場が夢の中だと分かっていたりしても無理があるよな。  アスクレーピウスはそのあたりの事を9人の姉妹によく話をしてくれた。  あまり、オレにいきなり多くを求めすぎないようにと。  彼がいてくれて助かった。  あのままパンツだの巨乳だのの攻撃に遭い続けていたら多分、オレは数日持たずにどうにかなっていただろう。  とにかく、中身がすっからかんのオレにこの世界の事を少しずつ理解させる事。  なんとか「アポロン様」になれるよう、ゆるーい「リハビリ」からまずはスタートする事になった。 ?
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