1人が本棚に入れています
本棚に追加
「アポロン様はご執心だった妖精の1人にご自分の車の操縦の仕方を教えていらしたのです」
「はぁ……車を」
「ええ。真っ赤に燃え盛るあの『火車』でございます」
木漏れ日が差し込む庭の入口。
ちょうどそこにバックで入ってきたのは、作業の人っぽいおっさんが操縦する乗り物だった。
馬のような生き物が引く、いわゆる四頭立ての馬車。
その車体から周囲にかけては真っ赤に塗られ……ではなく、めらめらとマジな赤い炎が燃えて上がっていた。
例えるならあれだ。
田舎の方でダルマとか燃して餅焼いたりする「どんど焼き」みたいな状態だ。
炎を纏って平気な顔でいるあり得ない馬(?)と、車体全体がファイヤーな車。
この世のものではなかった。
「えっ、ちょっ、アレ!?」
「はい。アポロン様の愛車でございます」
「あれ、車なの!?」
「ええ。あの日もアポロン様はニンフを操縦席に乗せ、縦列駐車の練習をなさっていました」
「待て待て待て! あの燃えてるので縦列とかできないでしょ! 前後の車燃えちゃうでしょ!!」
「あの日燃えたのは車だけではなかったのですわ」
カリオペー曰く、その日オレことアポロンは愛人のきれいなお姉さんを運転席に乗せ、自分はその後ろで「オーライオーライ」していたらしい。
しかし、運転初心者にいきなり縦列駐車を教えるのは無理があった。
アポロンは自分の愛車に牽かれ、おまけに思いっきり炎を浴びて消し炭になって死んだのである。
最初のコメントを投稿しよう!