【第二話】 リア充こわい

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『ご家族に連絡は取れたのか?』 『すぐにいらっしゃるはずです』 『……そうか』 『先生』 『嫌だねえ……まだこんなに若いのに』  医者が苦い顔をする。  小さくてわからないが、これは深刻な状況を目にしたときの顔だ。   オレはどうなってしまったのか。  オレは―――― 『先生、うちの息子はどうしたんですか……!!』 『お酒を大量に飲まれたようです。それが原因で……かなり危険な状態です』 『そんな!』 『申し訳ありませんが、覚悟していただいたほうがいいと思います』 『あああああ……!』  泣き崩れる母親。  父親もかなり動揺していた。  そして、オレが集中治療室から運び出されてきた。  顔には白い布がかかっていた。  父さん、母さん。  どういうことなんだよ? 「アポロン様、この人だれなの?」 「オレだ」 「オレ?」 「そう……間違いない」  オレは暫くその場から動くことができなかった。  ウーラニアーは「どうしたの? どうしたの?」と騒いでいたが、オレは固まったままその場に座り込んでしまっていた。  これは性質の悪い夢なのか。  夢ならそのうち醒めるだろう。  寝汗をぐっしょりかいて、オレは夢の中の最悪な気分を引きずったまま覚醒するのだ。  そんな事は子供の頃から何度もあった。  特に、今みたいな試験に落ちた直後に落ちる夢はいつも最悪だ。  朝起きたら泣いていた、なんてこともあった。 だが、オレの置かれている状況は、「何だ夢か」と単純に思ってしまうにはあまりにもリアルすぎる。  聞いたことすらなかった登場人物の名前も、声も、今感じている日差しの温かさも草木の匂いも、額に伝う汗の冷たさもオレの頭の中で作られた現象にしてはあまりにも具体的すぎる。  オレはいったい、どうなってしまったのだろうか……。
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