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『お父さんに代わる?』
「……いや、いい」
『そうよね。話したくなんてないわよね』
「うん」
『ところであんた、今年で諦めるって言ったわよね?』
オレは黙った。
多分、うんとかすんとか答えなくても母親はこの沈黙がオレの返事だって理解しただろう。
美大の受験は今年で3回目。
本当なら就活している時期の息子が大学の入り口でうろうろし続けて3年目だ。
ごねる奴はもう1年、くらい言いそうだけどオレはそんなに図々しくないつもりだ。
いや、違う。
決して所得の高くない両親にとって、オレはもうとっくに十分図々しい奴なのだ。
そのおかげで父親はすっかり怒ってしまい、ここ1年くらいまともに口をきいていない。
だからもう、分かっている。
『何時に帰るの?』
「遅くなると思う」
『終電の1本前くらいで帰ってきなさいね。そうじゃないと雪降るわよ?』
通話を切ると、馴染みの奴らがにやにやしながらオレを見ていた。
奴らも同じく今年「ダメだった」奴らだ。
2浪に1浪。
その顔には思ったより悲壮感がない。
まぁ、そうだよな。
ここに自分よりひどいのがいるんだもんな。
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