【第三話】オレと、オレ

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「貴方もあの方も、拝見する限りいたって健康そのものです。私に元気な体を治療することはできません」 「ちょ、元気ったって魂っつーか、人格逆んなってんだよ! 大問題じゃねえか!」 「何の異常もない肉体から魂を取り出すことはできないのです。異常がないとはつまり、健全に肉体に魂が宿った状態を言います。たとえ、『入れ物』と『中身』が通常の状態でなくとも」 「でも、こう、何とかなんないのかよ!?」 「無理やり治療すれば、恐らく魂は永遠にどちらの体にも戻らなくなります」  医者としての見解はこうだった。  肉体に魂を伴った「健全な身体」にはもはや、医者は手出しできない。  神の医者であっても健全な状態の魂に手を出せば、患者に待っているのは何か、素人でも分かる。  オレは黙るしかなかった。  魂が肉体に戻れないという事は、すなわち死ぬという事だ。  アポロン神もこのオレも、これから他人の体で生きていくしかないと、もうそういう事になってしまったのだ。 「こうなってはもう、貴方様も我々も現実を受け入れるしかありません。馬室哲学殿、これからはあなたが学芸の神・アポロンとして永遠に生きるのです」 「え、永遠?」 「はい。父上は100年前に不慮の事故でお亡くなりになりましたが、何もなければその肉体は永久に不滅です。今以上に老いる事もないでしょう」  わが肉体は永久に不滅です。  今以上に老いる事もありません。  つまり、いわゆる不老不死という事です。  って、マジで?  オレは訳が分からなかったが、アスクレーピウスはさも当然、という顔をしていた。  リアルな「神様」にはそれは普通なのだ。
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