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「あれ、何だろ」
屋敷の2階に上がると、奥に明るいバルコニーがあり、そこに一脚の椅子が置いてあった。
その上にあったのはレトロな形をした竪琴。
アポロンはこれを弾いていたのだろうか。
オレは試しにその竪琴を持ってみた。
すると、どういうわけか急に「オレはこれを弾けるかもしれない」という考えが湧いてきた。
「ギターの弾き方とは……多分、違うよな」
椅子に座って竪琴を抱え、左右から両手の指を絃に当てる。
軽くその細い絃を弾くと、美しい音が部屋に響いた。
でたらめでもいいか、別に。
オレは音楽室のピアノにイタズラする感覚で適当に竪琴を鳴らした。
そして、頭に思い付くままに即興で歌を歌った。
「会いたくて~会いたくて~空見上げて~でも会えなくて~会えなくて~切なくて~」
言っておくがオレは音痴だし、作曲の才能なんてない。
しかも、文才もないから作詞なんて高尚な事ができる人間ではない。
だが、なぜかでたらめな歌を気ままに歌うのが今は気分が良くて仕方がなかった。
ベタな歌詞、ありがちな歌詞、と思いながらオレは駅前で自作の歌を披露して自分に酔っているイタイ歌手志望の奴みたいに気取った声を張り上げた。
「冬の夜、ずっと君を待ってた、Oh my baby、フォーエバーラァアアアアアブ!」
ふと、背後から拍手が聞こえた。
振り返ると、名前はよく覚えていないが多分「ミューズの9姉妹」の1人。
彼女は目にうっすらと涙を浮かべていた。
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