【第五話】 仕事、時には楽じゃないです

1/10
前へ
/144ページ
次へ

【第五話】 仕事、時には楽じゃないです

「あの、君は?」 「メルポメネー。『悲劇・挽歌』のメルポメネー」 「そ、そうなんだ。直接話すのは初めて……かな」  耳の下くらいで切り揃えられた黒髪。  他の姉妹と違って、何だか東洋人に近い顔立ちだった。  長い睫毛と、愁いを帯びた黒い瞳。  多分、真面目な子なのだろう。  高校生くらいに見えるメルポメネーは、姉妹の中で一番露出が少なかった。  雪のように白い肌を少し長めの布で覆うようにしていた。 「悲しい時のアポロン様のお話を聞くのは私の役目。話して」 「話す?」 「嫌なら無理におねだりしないけど」  メルポメネーは目を伏せた。  ああ、そうか。  オレの浪人話やここまで来るいきさつもある意味「悲劇」というわけだ。  二階のバルコニーに戻り、オレはメルポメネーを相手に散々愚痴を聞かせた。  メルポメネーはペンを片手にオレの話をさらさらと書き綴っていく。  その方がちゃんと話が聞けるのだという。  妙な構図だったが、話しているとだんだん楽になっていった。 「……それで、才能のある奴がどんどんオレを追い抜いて行くんだ。今思えば、仕方がなかったんだけどな」 「でも、頑張ったのに報われないのは悲しい事」 「頑張ったなんて言えねえよ。だって、試験で使えないような変な絵ばっかり描いてたしさー」 「人が見て頑張ったって言えなくても、アポロン様は頑張ったって思ってた。それがだめだったら、悔しいと思うのは当然。心も痛くなる」 「そうかぁ……」
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加