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【第五話】 仕事、時には楽じゃないです
「あの、君は?」
「メルポメネー。『悲劇・挽歌』のメルポメネー」
「そ、そうなんだ。直接話すのは初めて……かな」
耳の下くらいで切り揃えられた黒髪。
他の姉妹と違って、何だか東洋人に近い顔立ちだった。
長い睫毛と、愁いを帯びた黒い瞳。
多分、真面目な子なのだろう。
高校生くらいに見えるメルポメネーは、姉妹の中で一番露出が少なかった。
雪のように白い肌を少し長めの布で覆うようにしていた。
「悲しい時のアポロン様のお話を聞くのは私の役目。話して」
「話す?」
「嫌なら無理におねだりしないけど」
メルポメネーは目を伏せた。
ああ、そうか。
オレの浪人話やここまで来るいきさつもある意味「悲劇」というわけだ。
二階のバルコニーに戻り、オレはメルポメネーを相手に散々愚痴を聞かせた。
メルポメネーはペンを片手にオレの話をさらさらと書き綴っていく。
その方がちゃんと話が聞けるのだという。
妙な構図だったが、話しているとだんだん楽になっていった。
「……それで、才能のある奴がどんどんオレを追い抜いて行くんだ。今思えば、仕方がなかったんだけどな」
「でも、頑張ったのに報われないのは悲しい事」
「頑張ったなんて言えねえよ。だって、試験で使えないような変な絵ばっかり描いてたしさー」
「人が見て頑張ったって言えなくても、アポロン様は頑張ったって思ってた。それがだめだったら、悔しいと思うのは当然。心も痛くなる」
「そうかぁ……」
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