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メルポメネーはぼそぼそとしていて表情も少ない。
だが、話を聞くのは上手で、オレの気持ちを否定しすぎず肯定しすぎずに程よく受け止めてくれた。
人の悩み相談を「平気、大丈夫!」と笑い飛ばすように元気づけてくれる話し相手も時には良い。
だけど、こうやって無駄に笑わず雰囲気を壊さずにいてくれるメルポメネーの態度が今のオレにはありがたかった。
きっと、人間界にいれば優秀なカウンセラーになっただろう。
そう思っていると、メルポメネーはペンを止めた。
「アポロン様、終わり?」
「うん。何だか聞いてもらえてスッキリした。ありがとな」
「……いいの。これが私の仕事だから」
小さな声でそう言ってメルポメネーは目を伏せた。
顔が赤い。照れているのだ。
そんな彼女を不覚にもかわいいなんて思ってしまうオレがいたりして……。
何だか妙な雰囲気が流れた。
そういえば、オレと入れ替わってしまったアポロンは9人の姉妹の中から1人を選ぶと約束していたんだったな。
だったら、オレは選んだ方が良いんだろうか。
9人の中から、たった1人を……。
「アポロン様、また悩み事?」
「いっ、いや何でもないよメルポメネー! ちょっと考え事!」
「アポロン様、私、いつでもアポロン様の力になりたい」
不意にぎゅっと掴まれた右手。
メルポメネーが訴える様な瞳でオレを見上げていた。
子犬か子猫のようなその円らな瞳……。
なんだこいつ、かわいいじゃねえか。
オレの心臓は不覚にも跳ね上がった。
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