プロローグ

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 予備校の講師はオレが言うとおりに描けない奴だと何度も言ったが、だからなんだと言うんだ。  デッサンとか、構図とか、そんなキチキチした言葉に従って何になる。  芸術は言葉じゃねえ、アートだ。  要は人を感動させられるかどうかだろう?  誰かに美しいとかすごいとか言われればいいわけだろう?  なのに何で、オレの絵はダメなんだ。  大学はオレを認めてくれないんだ。 なんで。 だから、なんで? 「てか……なんでわざわざオレら、大学まで見にいったんすかね? 合格・不合格はネットでも見れたのに」 「オレが来いって言ったから」 「馬室さん、毎年行くんすか?」 「受かってたら会いに来いっていう先輩がいるからな」 「そうだったんすか?」 「行かなかったけどさ」  美大(あそこ)には、オレを待っている先輩がいる。  先輩、と言っても年下だ。  オレがまだ1浪の時に仲良くなって、奴はそのままストレートで合格した。  奴は受かるまで毎年オレを待っていると言った。  オレはまだ1回も行っていない。  そして、行かないまま終わった。
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