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「うわぁ、きれいだね」 君は車を降りるといきなり駆け出し、公園の手すりを掴むと笑顔をいっぱいに輝やかせて言った。 そして生きていることの美しさを表すかのように背筋を伸ばし、口を大きく開けて息をした。 「ねえ。この桜は誰のために咲いているのかしら」 遅れてゆっくり歩を進めてきた僕はポケットに手をつっこみながら彼女に寄り添った。 「さぁ。誰かを元気づかせるためかな。暗闇で膝を抱えてしくしく泣いている人にそぉと肩を抱いて『ひとりじゃないよ』と耳元でささやくためだよ」 君は黙って聞いていた。
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