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目の前には奥琵琶湖の水面が広がる。 人の心に打ちつける厳しい冬の波濤は影を潜め、琵琶湖は穏やかな紺碧の色を帯びてようやくの春を告げていた。 「来年の今頃私はここにいるのかしら」 僕は君の手を握った。細かった。 直に骨の固さが伝わってくる。くち果てぬ風月にさらされた指。 おそらくは何千回も苦しさのため固く締め付けられた跡。 僕は君を支えるようにぎゅうと握った。 そして君が見ている景色を追いかけようと同じ視線でみつめた。遠い先を。
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