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「桜って何もない枯枝に突然鮮やかな色を付けて花一杯咲くでしょ。そしてあっという間に散ってしまう。それって私すごく共感するの。乙女の人生みたいだもの」
白い大きなつばの帽子を被った君は、鴨川の桜堤を自転車で駆け抜けながら後ろを振り返り大声で僕に呼び掛けた。
今それが目の前に広がっているよ。桜の花は鈴なりにアーチを描き君の髪を飾っている。
サク。サク。サク。サク。
一輪一輪が風車(かざぐるま)のように君の周りをまわっている。
「触れていいんだよ」
少しでも君の心に桜の息吹が届くなら。君の心の片隅に一枝の桜が生えるなら。
「そうね」彼女も生きている証しがほしかったに違いない。
君が手を伸ばし枝に触れようとしたとき咄嗟に僕は背後から抱きしめる。
「痛いわ」君はやさしく呟いた。
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