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古より夜の世界を統べてきた不老不死の王。
人の生き血を啜りその眷族を増やす。
その身を滅ぼすのは太陽の光と神への信仰を注いだ銀の杭で心の臓を貫くことだけとされる。
そんなあまりにも有名な話に出てくる吸血鬼。
僕、夕薙 誠はその末裔であるという話を
16歳になった先日母から聞かされた。
誕生日になんという幼稚な冗談なのかと思ったが
どうやら本当の話らしい。
母の夕薙 エレナは昔から見た目が若く、
僕が16歳になった今でも僕とさほど歳が変わらないのではないかと思うほどの若さを保っている。
母が言うには
昔から語られている伝説には間違っていることも多いらしく、吸血鬼は人の生き血を啜ってはじめて
不老不死の力を得るのだという。
母は後の僕の父になる夕薙 司の血を啜り眷族としたことでその力を得たことになる。
それ以外は普通の人間と大差はなく、陽の光を浴びても灰になることはないし、食事も人と同じもので充分だし、中には神を信仰している吸血鬼もいるという。
眷族となったものは主と同じく不老不死の力を得るものの吸血性はなく更に眷族を増やすことはできないそうだ。
現に父の司も見た目こそ20代そこそこに見えるが毎日外で何事もなく仕事をしている。誰かが襲われたという噂も聞かない。
吸血鬼になれるのは吸血鬼の血を正統に引き継いだものだけなのである。
つまり母のエレナとその息子の僕だ。
成熟した吸血鬼は衝動的に人の生き血を
欲するようになるという。
人の生き血を啜った瞬間から人では
いられなくなるということを人として
成熟しつつある僕に言っておく必要があったと母は言うのだった。
おおよそ信じがたい話ではあったが
母が
「このままあなたが人として生きるのであれば、私達よりも早く老い、やがて人として死を迎えるでしょう。」
と話したときの瞳が
あまりにも優しく、悲しく、そして冷たかったので
少なくとも嘘ではないのだと思った。
なんて最低な誕生日なんだろう。
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