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しばらく海に通い続けたある日。
いままで見たことないほど綺麗な夕日が、真っ赤に海を染め上げた。
見上げた浜辺の先、なにかが少しずつこちらに向かってくる。
ざっ、……、ざっ、……。
近づいてくる砂浜を歩く足音。
……ああ。
ひい婆ちゃんの云う通りだった。
ざっ、……、ざっ、……。
ダークブラウンの、チェックのハンチング。
胸に下がっているごついカメラには、紫色のお守りが揺れている。
ひび割れた黒縁眼鏡。
あちこち血の滲んだ身体。
引きずられる左足。
「勇人」
名前を呼んだけれど、彼は無言ですれ違っていく。
聞こえなくなった足音におそるおそる振り返ると、そこに彼の姿はなかった。
「……勇人」
あなたはそんなになっても私の元に帰ってきてくれた。
立ち尽くす私に、携帯が着信を告げていた。
【終】
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