海の向こうから

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「綾乃ちゃん。 少し散歩しましょうかねぇ」 「うん。 わかった」 職員に断り、ひい婆ちゃんの車いすを押して庭に出ると、海が見えた。 その傍の高台に建っているせいか、気持ちのいい風が吹いている。 「なんかあったね?」 「えっ」 思わず一瞬、足を止めてしまう。 けれど、なんでもないふりをしてまた、車いすを押す。 「綾乃ちゃん、元気なかろう?」 「……」 いつも通りに振る舞ってるはずなのに、ひい婆ちゃんにはわかってしまうんだ。 「誰かを待ってるんなら、海に行ってみんさい。 海の向こうからきっと、帰ってくる」
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