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ずっと昔。
日本が戦争をしていた頃。
もう本土決戦も近いなどという話も出て、不安な毎日を送っとった。
近所に住む、小さい頃から婆ちゃんを可愛がってくれたあの人にもとうとう召集令状が来てな。
受け取ったあの人はその足で、婆ちゃんのとこに来た。
「富子さんを僕にください!」
いきなり土間に額こすりつけて土下座されて、お母さんも祖父ちゃんもめんくらっとったわ。
婆ちゃんもなにが起きたんか、ようわからんかった。
でも、真剣なあの人にようやく理解してきて。
嬉しかったわ、婆ちゃんもあの人が好きだったから。
当然、反対された。
戦地に行って帰ってきたもんはおらん。
わかっとったけど、婆ちゃんはあの人と夫婦になりたかった。
一日でも一時間でもかまわん。
それに、あの人の望みは叶えてやりたかった。
結局、がんとして譲らん婆ちゃんとあの人に、みんな折れた。
出征の前の日に祝言をあげて、夫婦になった。
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