-独占の権利-

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「土方君、少しいいですか?」 各々が自分の仕事を始めだしてから暫く勿論例外ではない土方も筆を滑らせていた。 その時襖の外から声が掛かった。声の主は山南だ。 「ん?山南さんか。何か用か?」 「えぇ、勝負の事で。」 山南がニッコリしながらそう告げると土方は筆を置き山南を見つめた。 「ほう…もう決まったのか?」 「明日一日桔梗と過ごせるかと思うと嬉しくて執務どころではありませんからねぇ。」 「…もう勝った気でいるって事だな」 「えぇ、勿論」 山南がにこにことして話しているが土方は不機嫌になるどころかそれは楽しそうに口角をあげた。 「で?内容は?」 「ふふ…ありません。」 「は?」 含み笑いをしながら答えた山南の返事に土方は思わず素っ頓狂な声を出した。 「今日一日桔梗に自分なりに接して明日誰と出掛けたいのか桔梗に決めてもらうんです。夕餉の席で桔梗に決めてもらいましょう」 「てこたぁ…今日一日どれだけあいつの機嫌を取れるかってことか?」 「簡潔に言えばそういう事です。」 「だが…奴等の中には見廻りで屯所に居ねぇ奴もいるだろ?不利じゃねぇか?」 土方がそう言うと山南は得意気な顔をした。 「朝から屯所に居るのは土方君と私と斎藤君でしょう?」 「で、隊務が終わった奴らが後半にということか?」 「流石土方君、これだけで理解してしまうとは。」 山南は感心し、手を叩いた。そして土方は山南の提案を承諾した。 「じゃ、悪ぃが奴等に伝えてきてくれねぇか?」 「えぇ、勿論。では執務中に失礼しました。」 山南は軽く会釈すると軽い足取りでその場を立ち去った。 隊務に向かう前のそれぞれの部屋を訪ね勝負の内容を話すと皆首を縦に振ったとか。
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