神宮秋奈の毒書患想1

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 「七詩七歌(ななし なのか)さんの小説はやっぱ凄いわ」  菫ヶ丘高校二年の大庭彩乃(おおば あやの)は更新されたページを読み終えると、溜め息混じりにそう言った。 七詩七歌はWeb小説のクリエーターで、彗星のように現れ、初めて書いたという小説で、観覧数と栞を怪物的に伸ばしている。年齢、地域、仕事などの基本情報は非公開で他のユーザーとコミュニケーションをとることはないが、校内の話題の一つとなっている。  「難しい漢字よく使うから、読みにくい所もあるけどね」  彩乃の同級生、沙原洋(さはら ひろし)は呟きながらギャグ小説"本日のOMG"を読んでいる。  「て事は年輩のユーザーさん? 主婦とか」  「案外、私らと同い年かもね。読んだ本に影響されて難読漢字を使ってるんじゃないかと思う。今時のエンタメ小説と言うより、夏目漱石とか江戸川乱歩、芥川龍之介とか。それに初めて書いたって気がしないのよね」  異を唱えたのは、神宮秋奈だった。  「と言うと?」  「例えば"云う"って文字は、大人でも滅多に使わないし"仄めかす"と言うのも、普通はひらがなになるでしょ? それが書いてある本を読んで覚えないと使う事は出来ない。それにやけに文章が落ち着いてると言うか......」  「なる程ね、文芸はうちでも人気あるもんね。あたしは、まるで実際に体験したような作りだと思った」  彩乃はそう言うと、殺風景な表紙画面を確認する。 七詩七歌の"手紙"は、ノンフィクションではなくホラージャンル。これが本当に起こったことならばノンフィクションで書いてもおかしくはない内容だ。  「実際に体験したこと、か」  創作に纏わる諺が秋奈の脳裡を掠める。  "事実はフィクションから生まれる"
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