思い出の海で

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私の生まれ育った町は、海がすぐそばにある田舎町だった。 何もないところだったけれど、町の人たちはみんな良い人たちだし友達も沢山いる。 数少ない同級生たちもみんな仲が良くて、テレビで見るようないじめとかはなかった。 1番好きな季節は夏で、夏休みになると毎日のように海に遊びに行った。 朝から日が沈むまで海で遊んで、夜になったら花火をして。 楽しい思い出が沢山詰まってる。 そんな地元には大学はないため、高校を卒業すると大体の人は市外や県外へ出ていってしまう。 私もその1人で、現在は一人暮らしをしながら県外の大学に通っている。 都市部にある大学のまわりには、地元にはない高層ビルが建ち並んでいる。 遊ぶ場所は沢山あるけど、自然は少なくて空も小さかった。 夜は何時までも明るくて賑やかで、星なんか見えなかった。 最初は環境の違いに慣れないことも多かったけど、今は友達もでき楽しくやっている。 大学に入って初めての夏休み。 実家に帰ってきた私の携帯に、地元の友達から連絡が来た。 『麗(れい)ちゃん帰ってきてるよね?みんな帰ってきてるみたいだからさ、みんなで海行こうよ。』 田舎だから、誰々が帰ってきたみたいな話はすぐに広まる。 私は返事をすることなく、携帯をソファーの上に置いた。 みんなには会いたい。 でも、海には行きたくなかった。 実家に帰ってきてから数日。 部屋に引き込もってゴロゴロしてばかりの私のところへ母がやって来た。 「麗!あんた毎日毎日部屋に引き込もって。たまには外に出なさい!お友達みんな海で遊んでるわよ。ほら、さっさと着替えてあんたも顔出してきなさい。」 無理矢理着替えさせられ、家から追い出されてしまった。 家に入ろうにも、玄関の鍵を閉められて入れない。 しばらく玄関を見つめて立っていたけど、開けてくれる気配が全くないので諦めて海へと歩き出した。 歩いて10分もしないうちに海沿いの道路に出た。 空は雲1つない青空で、道路から見下ろす海も綺麗青く輝いていた。 砂浜の方を見ると、地元の小中高生が来ていて賑かだった。 海の家なんかない、地元の人しか来ないような小さな海水浴場。 はしゃぐ人達の中から同級生たちを見つけ、堤防の上から眺めた。 みんなが楽しそうに笑っている姿は、高校生の時と変わっていなかった。
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