思い出の海で

5/11
前へ
/11ページ
次へ
私は大和から離れるように、一歩後ずさる。 すると素早く大和に腕を掴まれ、体が強張った。 「危ないよ。海に落ちちゃう。もっとこっちに来て。」 そう言って優しく腕を引き、海から少し離れたところに腰を下ろした。 隣に座るよう促すように、自分の隣をペンペン叩く大和。 私は少し戸惑いながら、彼の隣に座った。 大和は何も言わず海を見ていた。 私はそんな彼の横顔を見ながら、ソッと大和に掴まれた腕に触れた。 痛かったわけじゃない。 優しく掴まれていた。 でも掴まれていた感覚が、まだしっかり腕に残っていた。 大和の手、温かかった。 大和との出会いはずっと昔。 同級生で、幼稚園に入る前からよく遊んでいた。 大和は男の子たちと外で駆け回るより、女の子たちとお絵描きをして遊ぶような大人しい男の子だった。 ちょっと頼りない大和が可愛くて、弟がいたらこんな感じなのかななんて思いながら、まるで自分の弟のように構っていた。 そんな私たちの関係が変わったのは、中学の卒業式の日。 お互い違う高校に進学が決まり、今まで毎日同じ学校に通っていた生活が終ろうとしていた。 卒業式の後、私の制服の裾を引っ張って俯きながら『麗ちゃん、ちょっといい?』と消えそうな声で言った大和。 『うん。』と答えると、大和は私の手を握って歩き出した。 私は大和に手を引かれながら、この海へとやってきた。 大和は足を止め、私と向かい合った。 『麗ちゃん…。好きですっ!付き合ってくださいっ!』 耳を真っ赤にして、真剣な表情で真っ直ぐ私の目を見る大和。 すごくシンプルな告白。 弟のように思っていた大和が、突然男に見えた。 そして心が温かくなって、嬉しさに自然と笑顔になった。 『喜んで。』 そう答えると、大和はびっくりした顔で私を見た。 『本当っ!?僕でいいの!?』 『大和がいいのっ!』 このあと大和に聞いた話だが、大和は絶対に断られると思っていたらしい。 けれどこのまま思いを伝えないと後悔すると思い、卒業式の日に告白しようと1ヶ月以上前から心に決めていたそうだ。 お互い初恋で、初めての恋人。 それにまだ15歳。 私たちのお付き合いは、それはそれはピュアなものだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加