思い出の海で

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私たちは広げていた荷物を片付け始めた。 そのとき、ふと大和の姿が見えないことに気づいた。 『ねぇ、大和どこにいる?』 『え?大和?大和なら男子たちと一緒にいたでしょ。』 『それがいないの。』 何故だか胸騒ぎがして、片付けをしてる男子達の元へ駆け寄った。 『ねぇ、大和どこいる?』 『は?大和ならそこに…。って、あれ?』 親指で後ろを指差しながら振り返る男子。 けれど、そこには大和の姿はなかった。 まわりにいた男子たちも誰も大和がどこにいるかわからなかった。 ますます不安になり、私は辺りを見渡しながら大和の名前を呼んだ。 大和は黙って何処かへ行ってしまうような子ではない。 同級生たちもおかしく思ったのか、皆大和の名前を呼び探し始めた。 『おい、あそこ!誰か溺れてないか!?』 『お前たちが探してる子じゃないか?』 海に来ていた大学生たちが海を指差しながら、私たちに声をかけてきた。 私たちは指差された方向を見たけど、もうだいぶ沖の方に流されてしまっていて、人だということはわかっても誰だか確認できる状態ではなかった。 けれど今ここで姿が見えなくなったのは大和だけということから、あの人影は大和だと思った。 『大和ーー!!』 私は叫びながら海に入ろうとしたが、大学生たちに止められた。 『おい、危ないぞ!』 『でも、でも、大和は泳げないの!このままじゃ死んじゃう!』 『俺たちが行くから、君はここにいて。』 そう言って大学生2人が持ってきていた浮き輪を身につけ、激しさを増す海へ入っていった。 同級生数名は大和の両親や大人たちを呼びに行った。 私や残された同級生は、海岸から大和の名前を叫ぶくらいしかできなかった。 大和は幼稚園の頃、家族で海に来ていたときに波にさらわれたことがあった。 そのときはすぐにお父さんに助けてもらい、大事には至らなかった。 しかしそれ以来海への恐怖が消えることなく、1度も海には入ることはなかった。 同級生は皆その事を知っていたから、大和を無理に海に誘う人はいなかった。 けれどこうやって皆で海に来るのは嫌いではなく、ビーチバレーや皆ではしゃいだりして楽しんでいた。 それなのにどうして、今大和は溺れているの? 大和の名前を叫びながら、そんなことばかり考えていた。
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