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『ダメだっ。海が荒れすぎてて、とてもじゃないけどあんなところまで行けない。』
海に入った大学生が海岸に戻ってきた頃には、もう大和の姿は見えなくなっていた。
大和の両親は荒れる海にむかって息子の名前を呼び、泣き崩れた。
消防団や漁師の大人たちは、こんな状態では海に入れないと捜索を諦めた。
もう皆、大和が生きていないとわかっていた。
翌日は更に海が荒れた。
防波堤の上から、荒れた海を見つめていた。
更に翌日。
昨日までの荒波が嘘のように静かになった海。
ようやく、捜索が始まった。
その日のうちに大和の亡骸が見つかった。
沖の方の岩場に引っかかっていたのを、地元の漁師が見つけた。
亡骸が見つかっただけでも幸運だと、大人たちが言っていた。
大和の体は傷だらけで、どれだけ怖かっただろうと考えると涙が止まらなかった。
大和の両親は、大和を抱き締めて離さなかった。
大きな泣き声が、辺りに響いていた。
『ごめんなさい…。私が、大和から目を離したりしたから…。私が、大和を海に誘ったりしたから…。ごめんなさい…。』
震える声で、何度も何度も謝った。
すると大和のお母さんが立ち上がり、ソッと抱きしめてくれた。
『麗ちゃんのせいじゃない。麗ちゃんのせいじゃないからね。』
大切に育ててきた一人息子を喪い、私以上にツラいおばさんが髪を撫でながら慰めてくれた。
それが、余計にツラかった。
お葬式も夏休みも、あっという間に終わった。
あの日以来、私や同級生は1度も海には行かなかった。
四十九日の法用が終わった頃、同級生皆で大和の家にお線香をあげに行った。
私たちが来ると聞いて、おばさんは人数分のケーキを用意しておいてくれた。
おばさんが学校での大和のことを聞きたいというので、皆で大和のことを沢山話した。
外が暗くなり、そろそろ帰ろうとしたとき。
おばさんが改まって私たちに向き合った。
『皆、今日はありがとう。それでね、おばさんから皆にお願いがあるの。皆、あの日以来海に行かなくなっちゃったでしょ?そんな皆の姿見たら、大和はショックを受けると思うの。だからね、来年も皆で海に行って欲しいの。あの子が生きてたときと同じように、皆で楽しんで欲しいの。』
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