事件:始まりの夜

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 とある商社マンである僕は、昨日結婚して3年目の妻を失った。  妻の死因は頸部圧迫による窒息死。  やったのは、僕。  初めはただの口論だった。結婚して3年、付き合い始めてからだと5年になる彼女がもはや僕に飽き、僕を愛していないのは分かりきっていたけれど、それでも浮気されたのは気に入らなかった。  そのことを問い詰めると、僕がつまらないせいで毎日が退屈だったと逆切れされた。罵詈雑言が機関銃の様に口から飛び出し、あまつさえすべての責任は僕にある、離婚するならしてやるからそっちが慰謝料をよこせなどと放言した。  ついカッとなって首を絞めた、ありきたりだけどそれが一番しっくりくる表現だと思う。男女の体格の差もあって、いともあっさり彼女は動かなくなった。  そして、僕は彼女を押さえつけた時の、あの我を忘れて首を締め付け続ける間の感覚を忘れることが出来なかった。  殺人によって快感を得たとか、そういうことじゃない。ただ、あの激情に駆られた間の”熱”は今までの僕には無かったモノだった。一度”熱”を知ってしまった僕の身体は冷静になった後もソレを求め続けた。  だから、誰か殺す事にした。あの時と同じ状況になれば、再び”熱”が得られると思った。  幸運にも、僕は全国を飛び回る仕事をしていた。出先で殺してもすぐ移動してしまうのでいくらか警察の捜査は遅れるだろう。  だが、妻がいないことに他の人間もいずれ気づくだろう。それにこれから起こす予定の殺人事件からも僕に結び付くのもそう遠い話では無い。僕はその期間を2週間と見積もった。2週間、これで再び”熱” を得られなければ諦めて出頭しようと思った。  僕は妻の遺体を風呂で血抜きし、肉は細切れして川に流した。骨も流した。  そして、何食わぬ顔で朝一の新幹線に乗り、N県へと向かった。  仕事鞄に一振りのナイフを忍ばせて。
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