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「ひっ!?」
「騒ぐな、刺すぞ」
自分でも驚くほどに冷たい声が出た。
恐怖で硬直した男の口にガムテープを張り、後ろ手に縛った。ここで漸く男が暴れ出したので車の中に突き飛ばし、転倒した男の足にもガムテープを巻いた。
女は放っておいても良かったが、騒がれても面倒なのでトランクに詰めた。
男から車のキーを奪い、人気が少なくて雨の当たらない場所へと車で移動した。場所については歩き回ってめどを付けておいた、ある橋の下だ。近くまで車で乗り入れることが出来る。雨が降って川が増水してはいるものの、氾濫することは無さそうだ。
そして、アスファルトで舗装された地面に男の身体を投げ出した
イモムシの様に這って逃げようとする男の腹を蹴りつけると、男は蹲るように悶絶した。胸中の小さな”熱”はその情けない姿を見て更に昂ることも、冷めることも無かった。
そして丸まった男を仰向けにひっくり返した。いつもなら足にでもナイフを突き立てる場面だが、妻を寝取ったこの男と少しだけ会話をしてみようという気分になった。妻の様に罵倒でもしてくれれば”熱”は強くなるという根拠のない期待があったのだ。
だが、男の口を塞ぐガムテ―プを剥がして真っ先に飛び出た言葉は、僕の望んだ物とはまるっきり違うものだった。
「こ、殺さないでくれ!!」
一気に冷めた。”熱”はあっけなく霧散してしまった。もうどうやっても取り戻せる気がしなかった。
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