終わる途中の始まり。

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そいつが来て一週間、早速問題が起こった。 あいつは携帯をいじりながら部屋に入ってきた。 「おはよう。」 彼の挨拶に私は黙秘権を使う。 「聞こえていないのか?」 黙秘。 「なんだ?ついに口も開かなくなったか?」 黙秘。 「うんとかすんとかいったらどうだ。」 しつこい。 「すん。」 「あっ、そこは言うのか。」 彼はあっけらかんとした表情で言う。 「さっきと言っていることが違いますが。」 「唐突に言われたら誰だってこうなる、お前はお前で良いや。」 彼の言っていることが理解できない。 そんなくだらない会話をしているうちにご飯の時間がやってきた。 配膳をするナースさんが無言で配っては扉を開けて逃げていく。 「何か忙しないなあの人。」 「いつもの事です、私は嫌われてますので。」 「ずっと耐えてるのか?」 「慣れました、それだけです。」 「お前凄いな。」 何を言いたいのかが分からない。 「普通はそう耐えたり受け入れたりなんかできないものだぞ。」 「その現実を嘆いて何になるんですか。」 「何かにならないとやらないのか?」 「何かにならないと無意味です、時間の無駄です。」 「やってみないと分からないだろ。」 「どちらにしても私には必要のない行動です。」 「そうか。」 彼は黙り込んだままで皿も片付けようとしない。 「貸してください。」 「なにを?」 「皿を貸して下さい、ドアの前に置きますから。」 彼は笑いながら答えた。 「いや、これでいい。」 彼が何を考えているのかもわからない。私は自分の皿だけ置いた。 「多分そろそろだな。」 彼の笑顔が何か黒い気がする。 「何がですか?」 私の質問は返ってこなかった。ドアの開く音によって遮られた。 「すみませんが、お皿はドアの前に置いてください。」 「配ってきたなら取りに来るんじゃないのか?」 「いえ、そんなことはしておりません。」 彼の笑顔は止まらない。
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