9人が本棚に入れています
本棚に追加
「よう、ダンテ・メレディス。遅かったじゃないか」
快活な挨拶が響いた。声の主はトーマス。俺とパブリック・スクールからの親友だ。赤みがかった金髪に、青い瞳。かすかに頬が上気しているのは、俺が来るまでの間、一杯ひっかけたからだろう。
黒いスーツは地味だが、カフスボタンに施された精緻極まる装飾が、彼の紳士的な豊かさをさりげなく印象づけている。
「まぁ、座れよ」と促され、俺はテーブル越しに革張りのソファに腰かけた。ベルを鳴らし、とりあえずスティルワインを注文する。
「どうした。酷い顔をしているぞ」トーマスはピクルスをつまんで、ゆっくりと咀嚼しながら尋ねた。
明るい雰囲気は崩さないが、真顔だ。目は真剣で、まばたきをせず俺を見つめる。
そんなに酷い顔だろうか。俺は鏡面のように磨き抜かれたテーブルに顔を映した。
ぼんやりと表情が写る。
きちんと撫でつけられた金髪。青い瞳。まぶたの下はぼやけて不明瞭だが、少なくとも眼窩は落ち窪んでいないし、クマができている様子もない。それでも少年期からずっと過ごした相手には、心のざわつきを見抜かれてしまうのか。
最初のコメントを投稿しよう!