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「イースト・エンド辺りに旅芸人がやってきただろう」
届けられた赤ワインで唇を湿らせて、話の口火を切った。
「ああ、確かゴシップ誌にそんな話が載ってたな」
トーマスは数秒、考えてから返答した。
「それで、君は見に行ったのかい? いいや、その顔は見に行ったという顔だ」
何を見たんだ、と問われ、俺は「ここで話すような知性や品性のある話じゃないよ」と返した。
「そんな事言うなって」
トーマスは立ち上がり、俺の隣にどっかと座った。寄宿舎時代は細身だったが、年齢相応の体つきになっていた。
「寄宿舎時代、『十字軍艶征記』を一緒に読んだ仲だろ?」
肩に腕を回され、耳打ちされた。
『十字軍艶征記』は男女の交わりについて書かれたポルノグラフィだ。第4部まである長編で、女の子について知りたい、熱くたぎるような年頃だった少年達はこぞって収集し、密やかな夜の愉しみにしたものだった。
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