第2幕

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驚きでグラスを取り落しそうになり、慌てて持ち直す。 「僕は君の正直さも好きさ。だから君とは正々堂々勝負したいし、今回、ルイーザ嬢を連れ出さなかった事にも感謝している」 酒で饒舌になったとはいえ、彼の言葉は真剣だった。 ミス・ルイーザ。子爵家の一人娘で、幼いころ、俺とトーマスは三人で遊んだものだった。もちろん、パブリック・スクールに入る前の話で、その頃の甘い記憶は、断片しか残っていないが。 「彼女ももうすぐ21歳だからね。女王陛下に拝謁も済ませたし、社交界では誘いが絶えないみたいだね」 俺が切り出すと、トーマスは「ああ」、と喜びと挑戦的なまなざしで答えた。 薔薇の蕾がほころぶように、最近のルイーザ嬢は少女らしい無垢な外見から、レディとして花を咲かせるように日増しに美しくなっていった。ルイーザ嬢は大変な慈善家で、数々の寄付を行っていると新聞に載る。 そんな記事が載ると、彼女の名声が高まるのが自分の事のように嬉しく、記事を切り抜いてはファイルに綴じている。 16歳の春、俺とトーマスは誓いを立てた。親の同意が必要なくなる、すなわち契約結婚ではなく恋愛に基づいた結婚が許される21歳まで、彼女に求婚しないことを。そして婚約が成立したならば、二人の生活を最大限尊重し、決して遺恨は残さないということを。
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