第2幕

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「俺の話は終わった。今度は君の話を聞かせてくれたまえ」 ほとんど泡の無くなったシャンパンを飲み、トーマスに話題を振る。 「今日は特に予定が無かったから、ずっとインで新聞を読んでいたよ。貴族の次男坊なんて、お互いやることは少ないものだな」 トーマスは近く選挙法が改正され、労働党の党員が増える見込みであること。 商売に長けた郷士(ジェントリ)が増え、その財産と爵位を交換するために上流階級とその下の階級の結婚が増えていること。 全て暗記しているのだろう。酒を飲んだことを忘れるくらい、順序だてて説明する。 ジェントリが台頭する話は少し耳が痛い。屋敷と使用人を維持するために、俺の一家もオーストラリアやインド、他の島々などで事業を展開しているからだ。 彼はさらに、『社会主義』という財産を国民全員で均等に配分すれば皆が幸せに暮らせる世の中が実現するという、新しい概念が登場したことを次々と説明した。 そうなれば貴族制度は崩壊するし、何より働かない人間が増えて、救貧院がますます劣悪になるのでは? と聞き返すと、「僕も君と同じ考えだよ」と首肯された。 流石パブリックスクールの元寮長だ。身体だけでなく頭も切れる。フェンシングやボート漕ぎ、ギリシャ語、弁論大会で火花を散らせた日々と全く変わっていない。
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