第3幕

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「さぁ、部屋へ戻ろう」 紳士が夫人の背中をさすりながら、オレを一瞥した。威厳や礼節は崩していない。だが表情は暗く、憔悴した様子は隠しきれていない。 「妻のはしたない姿を見せてしまったな」 髭をさすりながら、紳士が詫びた。 「いえ、お構いなく。どうもこのたびは、、、、、、」 防腐処理業を成功させる秘訣は、遺族とあまり込み入った話をしないことだ。理不尽な死に見舞われた家は、落胆と憤懣、そしてそのはけ口を求めている。下手に触って怒りの矛先が自分に向かってはたまらない。 「オレの仕事は終わりました。後はしっかりした葬儀をしてやることですな」 ハウスメイドが運んできたお茶には手をつけず、玄関の方へ視線を向ける。 「君に頼んで良かったと思っているよ」 オレが帰りたいと思っていることを察したのだろう。紳士が布袋を取り出し、握らせた。 布越しにがちゃがちゃした手ざわり。そして重さ。代金に間違いない。 「では、あっしはこれで」 仕事道具をしまった大きな麻袋をかつぎ、代金の布袋を懐にしまう。丁重に門まで送られた。しかし使用人達の顔は一様に「関わりたくない」という顔をしていた。 しょせんは死体を扱う賤業だ。 だがオレは、この職業を天職だと考えている。
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