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わたしは指先で金属の形状を確かめる。十字架だ。
わたしは十字架にも、聖水にも特別な感情は懐かない。
ただ、生きていくために『吸血鬼』の振りをしなければいけないだけだ。
「ぎゃああ、神よ、お慈悲を!」
悲鳴を上げ、いかにも苦しそうな演技をする。
喝采が高まる。何と残酷な人達なのだろう。
大声を張り上げたせいで、ばい煙と、砂埃が混じった空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
たまらず強烈なセキと、嘔吐感がこみあげてくる。
「止めろ! 苦しんでいるじゃないか!」
若い青年だろう怒声を耳に残響させつつ、わたしの意識は暗転した。
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