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ぴちゃぴちゃという音がして、わたしの手足に冷たいものがかけられる。
針で刺されたような痛みが薄れ、だんだんと意識が戻ってくる。
錆とカビの臭い。目蓋を開けると、薄汚れたテントが見える。
いつもの光景だ。
「おや、カレン。目が覚めたのかい? 全くディディアーノも酷い事をするねぇ。ロンドン公演だからって、こんなになるまで見世物にしなくてもカネは入っただろうに」
同情と憤懣の混じった愚痴。見世物小屋のボスをディディアーノと呼び捨てにできるのは、最古参のスカーだけだ。
スカーは手桶に張った水に布地を浸し、再びわたしの二の腕に湿布をしてくれた。
「ありがとう。スカー。もう、自分でできるから」
そうかい、と蝋燭の薄明かりの中で、スカーがほほ笑む。
均整のとれた身体。歌えばソプラノの名手。女だてら学問にも通じ、おまけに面倒見もいい。でも、神様はなんて意地悪をするのだろう。彼女の全身は鱗(うろこ)で覆われ、ヘビやトカゲにそっくりだ。
わたしは冷湿布を恐る恐るはがした。案の定、火傷を負ったように真っ赤に腫れ上がり、所々水ぶくれができていた。わたしが吸血鬼として見世物にされる理由だ。太陽の光をまともに浴びると、たちまち日焼けし、皮膚がただれる。
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