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彼らと出会ったのは、長き冬が終わって五月を目前に迎えた頃。この島にも桜の花が咲いた時でした。
人間の、男の子が二人。背丈顔つきもそっくりな双子でした。二人とも幼き眼を真っ赤に腫らして、寄り添っているのです。
「……ほら、投げなきゃ」
「うん」
「また悪口言われないように、変わろう」
彼らは防波堤のぎりぎりに立つと、海をのぞきこみました。
落ちてしまうのではないかと肝を冷やしましたが、彼らは島の子であり、海と共に住む者です。よく知っていて、慣れている。防波堤の端をしっかりと踏みしめていました。
純粋な、愛らしい瞳が、海を見ている。
もう何人もこの海をのぞき込んだはずなのに、どうしてか今だけは特別で、彼らと目を合わせているような気持ちになりました。
彼らが見るはいつもの海ですから、表情は変わりません。恥ずかしく感じてしまうのは私だけなのでしょう。
「一緒に流そう」
彼らは珊瑚色の手紙を取り出し、水面に乗せます。
波に任せてそっと置かれたため、手紙はぷかりと浮かんだまま。
「身捨様、お願いします。変わりたいんです」
そうして身捨様に願いを託します。
海面に近づけば彼らを驚かせてしまうでしょう。私は岩影に隠れて、手紙と海面を隔てた先にある彼らに視線を送ります。
波が寄せ返しをして時間を刻み、いよいよ手紙は沈みはじめました。
海水をたっぷり吸い込んで重たく、引きずられるように潜っていきます。
その様子に、彼らは深々と頭を下げました。
「ありがとうございます、身捨様」
私からすれば、ただ手紙が沈むだけですが。彼らは身捨様が手紙を受けとったと考えているのでしょう、だから感謝を述べたのです。
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