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この手紙は海に溶ける素材で作られていて、ゆっくり時間をかけて溶けた手紙は、ここで生きるものたちの餌となります。
私は海中に沈んだ手紙を追いかけました。
波が、揺らし、動かし。
はらはらと、手紙は、溶けていきます。
海の外から降る光が手紙の珊瑚色をきらりきらりと輝かせます。光の衣を纏った手紙は踊り始めました。
手紙がもう少し細かくなれば、潜んでいた魚たちが顔を出して、餌の取り合いをはじめるでしょう。
でも私は、他の魚が来る前の、溶けていく様を眺めるのが好きでした。
海に包まれ、喜び舞う。
そこに双子が託した想いがありました。紙に書かれた黒い文字を拾い集めるべく、私は手紙の周りをぐるぐると泳ぎます。
『ばかにされても、泣かない』
『泣きむしをやめる』
ゆらり、海に漂って、還っていく。
彼らが手放した悔しさが、嫌いな自分自身が、かすかな泡を放って還元される。
儚く美しい時間でした。
島の人間は、この手紙を身捨紙と呼びました。全てが還りし海に住まう身捨様からつけた名前です。
人間たちが流す身捨紙には悔しさや痛みが書かれていました。これらの感情を切り捨て、海に還すことで、希望を繋いでいこうとしたのでしょう。
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