身捨様の魚

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 冬の終わりに近づいた頃でした。  外の空気は温かくなりだしたけれど、雪が解けるまでは至らず。人間たちは春だと言っていましたが、この島ではまだ冬のまま。草木は雪の下で眠りについています。 「……身捨様、」  海風によって一足早く積雪のない防波堤に、彼がやってきました。ここしばらく双子の片割れはやってきていません。  その代わりのように、父親が寄り添っていました。  彼は、何かを抱きしめていました。それを手放そうとせず、唇をかみしめる様子に、父親が肩を叩いて促します。 「さあ。身捨様に還そう」 「……」 「もう、還そう。海に流すんだ」  ふらり、と彼の体が動きました。  手にしていた箱から。  さらりさらり。  風に乗り、海に落ちていく、欠片。  身を寄せ合い涙する彼と父親を横目に、私は海に落ち来る欠片を追いました。  身捨紙と違い、溶けることのない粉。沈んでいく欠片。  文字はありません。身捨様に託す後悔も感じられません。  外の光が降っても輝きは失われたまま。海に流され舞うのではなく、とっぽりと深く沈んでいく。  それは外の匂いを強く放つものでした。  そして温かい。夏の光のように熱を抱いているのです。  外で、よほど愛されてきた存在なのでしょう。  漂い、還っていく。  あるべき場所へ。身捨様の海へ。  身捨様が別れを引き受けるでしょう。
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