0人が本棚に入れています
本棚に追加
冬の終わりに近づいた頃でした。
外の空気は温かくなりだしたけれど、雪が解けるまでは至らず。人間たちは春だと言っていましたが、この島ではまだ冬のまま。草木は雪の下で眠りについています。
「……身捨様、」
海風によって一足早く積雪のない防波堤に、彼がやってきました。ここしばらく双子の片割れはやってきていません。
その代わりのように、父親が寄り添っていました。
彼は、何かを抱きしめていました。それを手放そうとせず、唇をかみしめる様子に、父親が肩を叩いて促します。
「さあ。身捨様に還そう」
「……」
「もう、還そう。海に流すんだ」
ふらり、と彼の体が動きました。
手にしていた箱から。
さらりさらり。
風に乗り、海に落ちていく、欠片。
身を寄せ合い涙する彼と父親を横目に、私は海に落ち来る欠片を追いました。
身捨紙と違い、溶けることのない粉。沈んでいく欠片。
文字はありません。身捨様に託す後悔も感じられません。
外の光が降っても輝きは失われたまま。海に流され舞うのではなく、とっぽりと深く沈んでいく。
それは外の匂いを強く放つものでした。
そして温かい。夏の光のように熱を抱いているのです。
外で、よほど愛されてきた存在なのでしょう。
漂い、還っていく。
あるべき場所へ。身捨様の海へ。
身捨様が別れを引き受けるでしょう。
最初のコメントを投稿しよう!