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「どういうふうにだ?」
「なんで、そこにこだわるのさ?」
「いいから言え」
武市は引きそうにない。それを言うのは実のところすごく恥ずかしい。
でも――。
「武市が好きだよ……だから、ちゃんと恋人がいい」
武市が目を細めた。
「言ったな?」
「言った」
男に二言はない。武市が俺の髪の毛をかきあげる。
これで、一応は一件落着、かな?
「ところで……」
武市が突然、意地の悪そうな顔で笑った。嫌な予感しかしない。
「ペナルティ、だよな? 名前間違い五回」
「間違ってないし!」
「今日じゃねぇ。この間の家出んときだ」
記憶を手繰る。言った、気がする。リュウさんなんか大嫌いとか……。
「あれ、は! ノーカウントだろ!?」
普通の状態じゃなかったんだし、不可抗力だろう。もちろん、そんな言い訳が通用するはずもなくて、途端に獣の目になった武市が俺に牙を剥く。
「今日は言いなり、な?」
「今日!? いきなりかよ!?」
「仲直りのセックスだろ? ちょうどいい」
言いなりって一体なにをさせられるんだ。俺の背を冷たいものが濡らしている。
武市の目はギラギラした中にも楽しそうで、それが微妙に腹立たしいやら安心するやら複雑な気持ちだ。
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